ディベートとお酒と、たまに図書館

とある大学図書館に勤務する職員が日常をつづります。

「なぜ君は総理大臣になれないのか」を見てきた

久々の外出で、「なぜ君は総理大臣になれないのか」という映画を見てきました。

nazekimi.com

コロナの自粛期間はまったく行ってなかったので、実に3ヶ月ぶりぐらいの映画館で、待合室の椅子がなくなってたり、全席指定席になってたりと、色々と変わってることにびっくり。

少し早めに着いたので、待ち時間でTwitterをいじってたら、今回の映画とも若干関係があるような面白いツイートを見つけまして、(すでにまとめられていたのでそちらを紹介)

sumatome.com

要約すると、

  • 通信環境とかがあるからといって、都会の人が田舎に移り住むのは大変
  • 田舎のコミュニティに入るのは難しい
  • 田舎に移り住むのは自由だけど、奨励すべき話ではない

ということなんですが、自分自身、人口1.5万人ぐらいの田舎から人口150万ぐらいの都市に大学進学と共に移り住んだので、ふむふむとう頷ける部分も多いわけです。

 

自分が感じた田舎と都市の違い

自分が感じてきた違いは色々あるわけですが、

コミュニティの強固さ

まぁこれも自分の経験ということになってしまうので、話半分で読んでもらうといいと思うんですが、田舎のコミュニティが強固というのは本当なんですよね。

都市に移り住むと、隣人が誰か分からないという現象が普通に起こるわけなんですが、自分が住んでた田舎だと、隣保班(りんぽはん)というものが今でも健在で、回覧板を持って行ったり、町内会費を集めたりするので、必然的に顔は覚えるし、交流も多いので「誰が結婚した/就職した/病気になったらしい」という噂も広がります。

コミュニティの特徴や役割を考えると、これはいい面でもあるんですが一方で、コミュニティの目を常に気にしてしまったり、均質性が高まったりするという悪い面もあります。

文化資本へのアクセス

文化資本と書いてしまうと大げさですが、要は本屋だったり、イベントだったり、映画のような娯楽があんまりない、ということです。

これは地域差もあるんだと思いますが、少なくとも僕が住んでいた街には本屋はなければ映画館もなく、人が集まれる喫茶店もありませんでした。小さな図書館はありましたが、本の閲覧のみで、いわゆる勉強できるような自習室はありませんでした。

都市に出てきて驚いたのは、

  • スターバックスがたくさんある!
  • 本屋でかい!
  • 電車が10分間隔でに来る!
  • 講演会とかライブとかのイベントにすぐ行ける!
  • (最近だと)Uber Eatsが頼める!

といったような、都市出身の人からは「なんでそんなことに驚いてるの?」と言われるようなことの数々でした。

田舎に戻れるのか?

今のところ、実家に戻る予定はないんですが、仮に戻ることになったとして、田舎で暮らしていけるのか?と考えると…んーどうだろう、という感じです。

現実問題、実家に戻っても仕事がないというのもありますし、仮にネット環境でできる仕事であったとしても、近所付き合いが煩わしくなってしまうかも…とも思います。たまに実家に帰って近所の人がふらりと現れたりすると、「こういう感じもいいなー」と思う一方で、それがずっと続くと快適かはまた別問題だと思うんですよね。

うちの両親も地区の世話役みたいなのをしてたときはすごく大変そうで、都会ではないそういうしがらみ的なものは、慣れていないと難しいような気がします。

映画の感想

という映画と全く関係ないことを長々書いたところで、映画の感想を簡単に記録しておきます。

選挙の大変さ/難しさ

この映画は、その名の通り、小川淳也衆議院議員の初出馬の2003年衆議院選から今までの物語に焦点を当てています。

2005年の衆議院選で初当選して以降、現在まで当選5回。しかし選挙区の香川1区には自民党平井卓也氏がおり、2009年の政権交代選挙を除けば全て比例復活。そのため党内での発言権が弱い、と本人が語っていました。

で、映画でも詳細に描かれるんですが、選挙ってすごく大変なんですよね。まずは家族を巻き込んでの戦いになるということ。小川さんの場合、両親、妻、娘2人が総出で選挙を手伝っています。娘さんの「将来、政治家になる気持ちは全くない。政治家の妻にもなりなくない。でも、今回の選挙は勝ちたいから全力で応援する。」という言葉と、お父さんの「若者が政治を目指すのは大事だと思うし、そういう世の中であるべきだと思う。でもそれが自分の息子が、という話になると単純にそうは言えない」という言葉が政治の難しさを物語っているように思いました。

僕の地元でも選挙は家族総出でやる大イベントみたいな感じがありました。今はそうでもないのかもしれないですが、家の前で食事や飲み物をふるまったり、ポスターを貼ったり。そしてやっぱりうちの地元みたいな田舎だと、長老的な人が発言権大きんですよね。選挙のときはそういう人が見方についてくれるかで大きく情勢が変わるので、その辺りの付き合い方も大変そうでした。

政治信条と党利党略

これは結構序盤から描かれているんですが、小川さん自身、自分の政治信条と党利党略の間で悩み続けます。特に2018年の総選挙では、小池都知事が率いる希望の党ブームが起き、小川さんが所属する民進党は分裂。希望の党公認として選挙に臨むのか、無所属で立候補するのか、という難しい決断を迫られる様子は映画の中でも長い時間をかけて注目されています。

小川さんは、希望の党の公認としての立候補を決断するんですが、安保法制などの政策がこれまでの小川さんの姿勢と違う党からの立候補ということで、地元の有権者から厳しい言葉を投げかけれれる場面も映画では捉えられています。

一連の場面を見て、「なんでここまでして政治家になろうと思うんだろう?」というのが最初に出てきた感想でした。選挙(特に小選挙区)は地元重視の側面がある以上、上で書いたような田舎でのしがらみと似たような問題を抱えます。

地元の人に頭を下げないといけない、厳しい言葉も投げかけられる、家族も巻き込まないといけない、政治のしがらみに巻き込まれる、しかも三世議員という強力な対立候補がいる、などなど自分だったらあえてそんな環境には絶対に飛び込みません。

それでも人生をかけて、自分の意思を貫こうとしている小川さんは立派だと思いました。

51対49と0対100

特に印象に残ったのが小川さんの

世の中全てのことは51対49のはずなのに、特に政治では出てきた結果は100対0のように見える。自分は51の側に立ったとしても49の意見を汲み取りたい。

という言葉でした。

政治家の役割とは何か、と考えたときに「有権者の意見を代弁すること」とのが教科書的な答えなわけですが、自分に投票しなかった人の意見も汲み取る、ということが大事なのは明白です。これは言うは易しですが難しい。議会では51の勢力があれば法案は通るわけで、自分たちの意見を通し続けることの方が簡単です。

昨今は特に49の意見が届かない傾向が強まっているように感じます。そういう状況だからこそ、小川さんのような意見を持っている人が政治家になるいみは大きいように思いました。

小川淳也さんは政治家に向いているのか?

これも映画の中で何度も問いかけられています。魑魅魍魎の政治の世界で、小川さんのような純粋な意思を貫くのはもしかしたら難しいのかもしれません。

けれども、少なくとも僕はこういう純粋な思いで政治をやってくれる人に1票を投じたいと思いました。

まとめ

この映画は、こういう(特に野党の)政治家もいる、ということを広く知るという点で非常に意味のある映画だと思いました。個人的にはもっと若い人に政治に関わって欲しいけれでも、残念ながら自分自身が政治に関わるまでの力はありません。

だからこそ、政治に挑戦しようとする人を応援することが大事だと改めて感じた1日でした。